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最高裁判所大法廷 昭和23年(つ)25号 決定 1948年11月08日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告辯護人岡林辰雄同中島輝年同美濃修司の抗告理由は別紙のとおりである。

刑事訴訟法第三二三條は裁判所が第一回の公判期日における取調べを準備するため、公判期日前に被告人を訊問し又は部員をして訊問させることができることを規定したものである。もとより憲法は、何人も自己に不利益な供述を強要されないことを保障しているから、被告人は準備手續においてかゝる供述を拒むことができ、現に本件の被告人中にも供述を拒んだもののあることは記録上明らかであるが、被告人が供述を拒まず任意に供述する場合においてこれを訊問することは憲法の禁ずるところではない。すなわち、この手續はあくまで公判の審理が完全に行われるための準備であって、公判そのものではないから、憲法にいわゆる「裁判の對審」ではない。被告人は準備手續後の公判において自己の依頼する辯護人があればその辯護人立會の下に公開法廷で審判されるのであって、これが「裁判の對審」である。されば公判の準備手續が行われたからとて、被告人は憲法第三七條に定める公開裁判を受ける權利を奪われるものでもなく、又憲法第八二條に違反して審判されるものでもない。それ故、刑事訴訟法第三二三條が憲法のこれらの條規に反するものではないと判斷した原決定は相當であって本件抗告は理由がない。

なお抗告理由には、受訴裁判所が公判の準備手續を行ったことにより事件につき豫斷を抱き偏頗の裁判をする虞があることを原由とした裁判官忌避の申立を却下した決定を是認して抗告を棄却した原決定は失當であるという主張があるが、かゝる理由は日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第一八條に規定する理由に當らないから、本件抗告の適法な理由でないので採用することはできない。

よって刑事訴訟法第四六六條第一項に從い主文のとおり決定する。

この決定は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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